あいしてる


「あぁ、そうか」

なにかいい考えがひらめいたのか、嬉しそうにあたしを見る。

「…な、なに?」

きっと、よからぬことを考えているに違いない。

今にもこの場から逃げ出しそうなあたしの両肩に手を置いた彼が、スッと耳元に顔を近づけた。

そして、

「愛してる―…」

そう囁いたのだ。

「……っ!?」

これ以上は無理だというくらい目を丸くしたあたしの耳元で、

「…って言ってみろ」

と続けた。

「はぁ?」

「なんか、変わるかもしんねぇから。とりあえず言ってみろ。なっ?」

「……」


“愛してる”

あたしたちには一生、縁のない言葉だったはず。

「言ってみ?」

まるで少年のような目であたしを見る彼に、その言葉を捧げたら、なにかが変わるかもしれない。

彼の言葉を真に受けて、あたしは深呼吸を繰り返して言うんだ。


「……あ、…いし…て…る…?」




【END】

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