異人乃戀
 この世界では十五歳は立派な大人だ。十代になれば大人とみなされる。

「私なんて脳天気に遊び回ってたのに……」

 それが裏倭の常識であり、その常識の中で成長してきた者達にとっては何らおかしくないこと。
 戦があるこの世界では早々に子孫を残さなければ、血が絶えてしまうという理由もある。

「幸せな世界に生まれたんですね。だからあなたは私たちを幸せな心にしてくれるんです」

 凪はそう言うと、湖阿の手をそっと握った。

「湖阿様が来てから青龍と玄武は変わりました。勿論、志瑯様が目を覚ましたからということもありますが……明らかに民が活気だっている」

 救世主は存在するだけで力になる。湖阿はそう言われていたが、いまいち分かっていなかった。ただ毎日自分のしたいように生活しているだけ。手を貸しているわけではない。
 そして、狙われる運命にもある。救世主だから……。狙われる事で誰かが危険にな目に遭う。
 
「そんなことないよ。私は……」

 ただのお荷物。そう言おうとしたが、凪が口に手を当てて静止した。

「あなたは選ばれた方。卑下するようなことは言わないで下さい。それに、湖阿様は救世主としてではなくても志瑯様はあなたに助けられている」

 凪はそう言うと、立ち上がった。湖阿はどこか寂しげな凪の後ろ姿を見て気付いてしまった。

 志瑯は凪を信頼していると言っていた。凪も志瑯を信頼している。信頼しあっている二人がなぜ、近いのに遠いのか……。

「なにを胸に隠しているの?」

 そう湖阿が問いかけると、凪は振り向いて驚いた顔をした。そして、すぐに苦笑する。
「……私は志瑯様に一生仕えると決めました。側女という家臣として……。皆の言うような側女の役割は果たさないですが、志瑯様もそう望んで下さっているのです」

 幼い頃から志瑯の妻になるべく育てられた凪だったが、凪は妻にならず側女となることを選んだ。それは凪の意志だった。
 妻となれば身動き出来ないようになるが、側女であれば自由に動ける。そう思っての判断。
 凪の親を含め周りは反対したが、凪は意志を曲げなかった。
 志瑯に対して淡い恋心を抱いていた時期もあった。しかし、凪はその気持ちを決して出さなかった。
 出した所でどうなる?志瑯が困るだけだ。凪は側女となると同時に、恋心も封じ込めた。

「湖阿様、どうか志瑯様を救って下さい。あの方を闇の中から救い出せるのはあなたしかいない」

 凪は湖阿にそう言って微笑んだ。
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