異人乃戀

 湖阿が咏の部屋を出ると、珍しい人と出会った。
「凪様?」
 凪は微笑むと、頭を下げた。凪はほぼ自室周辺から出ることがないため、湖阿はなかなか出会う事がなかった。

 特に親しい訳でもなく、自室に行くには気が引ける。

「こんにちは、湖阿様」
「こんにちは。珍しいですね、ここにいるのは」

 湖阿が言うと、凪は頷いた。

「少し散歩を。いつも同じ場所にいては気が滅入るので」
 凪はため息をついて苦笑した。側女である凪は政に積極的に関わるわけでもなく、子もいないため時間に余裕があるのだろう。

「あ、凪さん時間があるなら話をしませんか?」

 咏との勉強後にいつも暇を持て余している湖阿は凪と仲良くなる是好の機会と提案した。

「まぁ、ぜひ。ゆっくりお話をしてみたかったの」

 ここで話すのも……と言って、凪は自室へ湖阿招待した。

 凪の部屋は至って簡素であった。燭台と台のみがある部屋。台の横には書物が整頓されて置いてあった。
 二人は初めはぎこちなく余所余所しかったが、歳が同じと分かると、一気に打ち解けた。

 育った環境の違いのせいか、凪は落ち着きのない湖阿と対照的に落ち着いているため、年上のように感じたのだろう。


「凪様絶対年上だと思ってました」
「様なんてつけないで下さい。同じ歳ですし、私は様付けされるような身分ではないので……」
「え、じゃあ凪さん?」
「さんもいらないです。」
「凪?」

 凪は微笑むと頷いた。
 湖阿は少し気が引けたが、凪が喜んでいる様子をみて気にする事をやめた。
「じゃあ、凪も……」
「私は湖阿さんと呼ばせていただきます。救世主様ですし、私自身慣れていないので……」

 同じように呼び捨てで呼んでほしかったため、湖阿は何度も食い下がったが諦めた。
 凪自身が丁寧な言葉遣いであるため、無理強いはできないと思ったのだ。
「十七で結婚て早いわね。……ここでは普通なの?」
「私は十五で志瑯様の側室になりましたけど、だいたいそれくらいで嫁ぎます」

 湖阿は元の世界との違いに目眩がした。全く違う世界で常識も違う。元の世界でも大昔は十五歳での結婚はあったかもしれないが、今は絶対に有り得ない。
 十七歳でもまだ高校に通っている年代であり、湖阿の周りで結婚している人は居なかった。
 世間的にはあると聞いていたが。
「若いわね……まだ子どもなのに」
 そう呟くと凪は笑った。
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