お腹が空きました。
「まぁ、全部俺が悪かったってのは、もう分かってるしな。牛野にも、あれだけ振られたら学習しただろう、って言われた。」
「え、振ったんじゃなくて、振られたんですか?三人とも?」
この杉崎さんが?
紗耶は目を丸くしながら濡れた鍋を食器カゴに立てかける。
「……そうだよ。『あなたとは一緒にはいれそうもない』だと。だから結婚出来ないとか仕事もするヒトリ主夫とか見た目と中身のギャップがありすぎて引かれるタイプとかって牛野に…。あー、もういいだろ?この話は終わりだ。」
杉崎はやけを起こしながら食器用ふきんを取り出した。
牛野さんって意外と毒舌だなぁと思いつつ、紗耶は手をタオルで拭く。
うーん、でも…
「…そうですかねーー。出来ると思いますよ、結婚。」
あっけらかんと答える紗耶に、杉崎はふてくされた表情のまま、慰めなんかいらねぇとばかりに濡れた鍋を掴んだ。
キュッキュッと鍋を磨き、コンロにそれを置いた杉崎をじっとみながら、紗耶は軽く企んだように口元をむにっと曲げる。
「結婚した事ないんでコツとかよく分かりませんけど…、ようは思いやりの話でしょう?と、いうことで……とりゃぁ!!」
そう言うやいなや。
紗耶は食器とふきんを持つ杉崎の背中に、後ろから思いきり抱きついた。
「ぅ、あっっぶねぇ…!」
杉崎は落としそうになった食器を大きな手で慌てて掴み直す。
暖かくて広い背中に頬をすり寄せながら、紗耶はニマニマと笑った。
「あははーー。さて杉崎さん。私今からわがままをいいますので。」
程よい細さの腰に、筋肉がガッシリめについていて、紗耶は杉崎のフェロモンに当てられながらやっぱり杉崎さんの背中すごく好きかもーなどとこっそり思う。
「はぁ?」
後ろを上半身だけで振り返り、困惑する杉崎に紗耶は口元を緩めながらニマニマ喋った。