お腹が空きました。


「やー、だからあんまり聖域を汚さない方がいいかなぁって。
でも杉崎さん帰り遅いだろうし、疲れてるかな、とか色々思いまして…。
これ、疲れてるときでもツルツルいけちゃうんですよ!
お母さんがよく受験のとき作ってくれたんです。

なのでやっぱり食べて欲しいなぁと思っちゃったりしちゃったりして。」

回ってきた大鍋に視線を注いだまま、紗耶は照れを隠すように淡々と喋る。

「あーー、なので美味しく食べてもらって嬉し…」

「忘れろ。」

「ぇえ?」

素っ頓狂な声を上げ、紗耶はとなりに立つ杉崎を見上げた。

どういう事だ。

餃子を食べた事を忘れろというのか?

「牛野に吹き込まれた事は忘れろ。」

「ああ、なんだそっち。」

紗耶は鍋すすぎを再開しながら軽く脱力し、もう一度杉崎を見上げる。


杉崎は手を洗い、乾いた台ふきんでステンレス部分についた水分を拭き取りながら苦虫を潰したような表情でぼそりと喋った。

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