お腹が空きました。










ん、



一方的なメールに書かれていた待ち合わせ場所は、紗耶の職場の本当にすぐ近くで。



ん…?




よく私の職場分かったなぁ、と感心しながらオレンジジュースをすすり、木下を待っていた所に。



んん…?!




「…むろうち、さやさんですよね。」






…見覚えのある女性が現れた。





「ちょっと早いよユウコーー。」

凛とたたずむ髪の長い華奢な彼女を見上げ、紗耶は氷のように固まる。

ダークローズ色の暖かそうなワンピースがよく似合う優子と呼ばれた彼女の後ろから、一年前より垢抜けた木下が息を乱しながらこちらに走ってきていた。

相変わらず明るい彼女は紗耶の姿を確認すると、まるで1週間前にあっていた友人のように人懐っこい笑顔で手を振る。


「あ!先輩久しぶりです!あ、知ってると思いますけど、良介先輩の今カノのユウコでっす。」

その屈託のない笑顔は“今カノ”と“前カノ”をわざわざ遭遇させている修羅場な状況とはあまりにもマッチしない。

紗耶は戸惑いしかない瞳をパチパチさせ、木下と優子を交互に見た。

「ってことであとはよろしくお願いしまっす!」

「え?あれ?木下さん?」

悩みがどうとかいうのは?

そのまま軽快に立ち去ろうとする木下に紗耶はガタリと席を立ちながら慌てる。

君、この低温な空気をまさか丸投げするつもりではあるまいな。

紗耶の無言の抗議など、彼女の周りの陽気バリアーでカスンカスンと弾き返され。


「じゃあねユウコ!これでレポートの借りは返したから!」


ちょ、ええええーっっ!


また明日ーとあっさり消えて行く小走りな後ろ姿に紗耶は心の中で絶叫した。


こ、これは…

紗耶はゆっくりと前の席につく彼女に目をやる。


気まずい以外のなにものでもないこの空気。

紗耶はどうにかしなければと混乱する頭で必死に考えた。





「あーー、えっと、…はじめまして?」

紗耶は上手く作れなかった微妙な笑顔で背中を丸めながら話しかける。

「いえ、夏の初めに一度…。ちゃんとお話するのは初めてですが。」

彼女はまっすぐ紗耶のオレンジジュースを見つめながら静かに、張り詰めたように答えた。

…ま、まじめそうだなぁ。

そんな風に感じながら紗耶はふと彼女の二の腕に視線を移す。

あれ?もしかして更に痩せた?

枝のような腕に紗耶は少しどきりとした。

「あぁ、そうだねっ、そうだったよね。」

「…。」

「あははは…は…。」

「…。」

「…。」




やっぱり気まずいよーーー!!!



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