知らない闇と、骸



「ジロ。」

マルツが、お手洗いに、と席をはずしたのを見て、蜂を弄くりまわしていたジロに話しかける。
「何だよ?」
「見て、この花。知ってる?」
バラ園の隣にある、花壇。
バラがあまりに見事だからか、皆そちらばかり見てしまうが、この花の花壇はお父様同様私もとても大事にしていたものだ。


「・・・ん~、ベル、バラ・・・?」
「バラとかけているつもりでしょうけど、それは花の名前じゃないでしょ。有名どころを出さないの。ポリニャックって言われるわよ。知らないなら、知らないで良いのに。」
変に頑固なんだよなぁ~、とか思いつつ。

「何だよ、ちょっと冗談じゃねぇか。」
「・・・私の家は冗談が言えるようなところではないからね。それより!ガーベラという名前なのよ。かわいらしいでしょう?」
その花の頭の下に手をいれ、支えるようにこちらへ向ける。
そうか?という顔をして、さも興味なさげにそっぽを向いてしまった彼の背中にさらに話しかける。
「ガーベラの花言葉はね、希望なの。だから、この家のものは皆、この花は大切なのよ。」
にっこりと笑うアレンに、あきれたような表情のジロ。
「なんで、だから、になるんだ?」
「ああ、言っていなかったわね。昔、お亡くなりになられたお母様の名前が、ウィルマというの。古の意味で、希望。」
ジロは、何か言いかけて口を閉ざした。
反対側からマルツがかけてきたからだ。




「アレン様、おそくなりまして・・・。」
マルツの声はそこで途切れた。






< 19 / 47 >

この作品をシェア

pagetop