知らない闇と、骸


アレンの意識はすでに、マルツにはなかった。

ジロは目の前にいるのに・・・。
宙に浮かび、私をジッと見ている。
私の世話係のマルツは、ジロに気づきもしない・・・?
奴隷たちに素を見せることは禁じられている。
それは、確かに大事な決まりごとだけど・・・。
だからマルツのいうことはよく判る。
だけど、ジロに気がつかないの・・・?

慌てているから、ジロに気がつかないのだろう、とその場は一旦そう置いた。
「アレン様、そろそろお戻りになりましょう。お勉強のお時間です。」
腕時計で時間を確認すると、満面の笑みになったマルツが私の腕をむんずと掴み、競歩の勢いで歩き出す。

半ば、引きずられるようになりながら歩く私の後ろを、さも楽しそうに、ジロは着いてきていた。





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