わたしのピンクの錠剤
 
「それじゃ、仮説を立てよう。哀哉の人格は乗り移れるとしよう」

立花先生は目を閉じたまま、イスを少し回した。



「産まれる前の哀哉の人格は死ぬ前に達哉に乗り移った。ここまでは、いいね?」

親父と私は頷く。


「達哉は成長し、哀哉も交代人格として成長する。これも、いいね」

「ううん、おばあさんはもう一人を隠すように人格が入れ代わることはなかったって」


納得のいかない立花先生を見て、親父が付け足した。

「担当した医師もそう言ってたらしいです。小さい頃から達哉と哀哉はひとつの肉体を二人で共有していたとも言ってました」

「どういうこと?」

「達哉と哀哉は主人格と交代人格って関係じゃなかったってことです。二人とも主人格と仮定すると納得がいくんです」

「おばあさんが二人は喜びも悲しみも快楽も痛みも、全てを共有していたって」

「うーん、それはあり得ないな。そういうのは多重人格とは言わないよ。・・いや、これは多重人格じゃなかった。そうか、・・ちょっと待って。達哉はそもそもDIDじゃなかったってことなのか。・・大人になってからはどうなんだろう」


百戦錬磨の立花先生が混乱している。

「大人になってからも、死ぬまでずっとそうだったって」

私はおばあさんが言ったことを繰り返した。

「そんな馬鹿な。結婚してからも、ベッドの中までも、達哉と哀哉は共有していたって言うのか?」


 
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