幸せまでの距離

星崎家の養子に迎えられ、何不自 由ない生活が待っていた。

自分を苦しめる母親とも綺麗に別 れることができたし、新しい家族 はメイを思いやってくれる。

悩むことなど、もう何もない。

リョウへの罪悪感を持って、前向 きに生きる。

それが自分のするべきことだった はず。

しかし、メイの根本は変わってい なかった。

他人を思いやる心が持てない。

他人に優しさを示されても裏をか いてしまう。

猜疑(さいぎ)心ばかりが先行 し、好意をありがたがることがで きない。

特に、異性に対しては……。

「こんなはずじゃなかった……」

人気のない公園で、メイは泣きな がら独白する。

「金もある。

食べ物にも困らない。

話を聞いてくれる人もいる。

なのに、なんで……?」

一般的な暮らし方をすれば、自分 もまっとうな道を歩めると思って いた。

専門学校で学ぶ生活の中で、《希 望》という言葉を信じてみても良 いかもしれない、とすら感じてい たのに。

「実際はこれだよ。

……笑っちゃう。ははは」

メイの口元から、渇いた笑いが漏 れた。

自分に親身になってくれるリクを 突き放した時、爽快感を覚えた。

いまメイは、リクを失った悲しみ と同時に、長年抱えてきた苦しみ から解放された気がして安心して いた。

客観的に見て、リクを傷つけて気 分を軽くしている自分が、いかに 普通でないかを思い知った瞬間で もある。
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