幸せまでの距離
一方メイも、新生活に踏み出そうとしていた。
ミズキと過ごす時間に影響を受けたメイは、高校卒業後、製菓専門学校に進学することにした。
短かった春休み中、メイはミズキや菜月と共にしょっちゅうお菓子作りをしていた。
18年間、心安まる時のなかったメイにとって、星崎家での安定した生活に慣れるのにも相当な気力が必要だった。
いや。まだ、完全には慣れていない。
様々な局面を共に見てきたからか、歳が近いからか、ミズキと打ち解けるのは早かったが、
父·大成にはいまだに気を使うし、口には出さないが腹の底でくすぶる黒いかたまりのような警戒心があった。
大人の男性がこわい――。
精神的にも環境的にも、あらゆる場面において新しいことに飛び込んだメイには未来を思い描く余裕など持てなかったけれど、
かつて関わっていた同級生、星崎リョウへの弔(とむら)いという意味も込めて、本格的にお菓子作りの腕を身につけたいと考えた。
亡くなった彼がメイに宛てて書いた最初で最後の手紙は、メイにとってどんな物より重く、どんなものより大切であった。