幸せまでの距離

望んでも手に入らなかった愛情。


メイが食欲を満たせないのは日常茶飯事。

何事もなく眠れれば幸せな方だった。


離婚後しばらくは、職に就かず家で酒に溺れて昼と夜の生活が逆転していた翔子も、次第に外に出るようになった。


学校から帰宅したメイは、母親がいない家の中を見渡し、寂しさと安心、二つの感情を抱く。

“お母さん、いつ帰ってくるんだろう?”

テーブルの上に転がった翔子の腕時計で時間を確認する。

日も暮れてきたが電気はつけない。

翔子が「一人の時に電気を使うな!」と、怒るからだ。


幼なじみのリクが持ってきてくれたカップラーメンを食べるため、メイはたどたどしい手つきで湯を沸かす。

これも翔子に「ガス代の無駄だ」と言われ殴られると思い躊躇(ちゅうちょ)したが、ここ4日、給食以外の物を口にしていない。

舌をヤケドしてしまうのを承知で、ろくに咀嚼(そしゃく)せず胃にラーメンを流し込むと、翔子にバレないように、近所のコンビニのごみ箱までカップのゴミを捨てに行った。

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