幸せまでの距離

唯一自分をかまってくれていた父親を失った寂しさ。

何をしても母親を怒らせてしまう辛さ。

メイが家の中で感じるのは、そのどれかしかなかった。


“泣いても無駄。

誰も助けてはくれない”

幼い頭でがんばって理解しようとしていたが、メイの涙腺(るいせん)はきつくなってはくれなかった。

ただ、愛されたくて。

「ごめんなさい」

わけもわからず謝った。

「謝ってすむことじゃないんだよ!

グズでノロマなアンタなんか、何の役にも立ちやしない。

何で生まれてきたのよ!!」

ただ、笑いかけられたくて。

「ごめんなさい。メイ、いい子にするから。

お父さんの分までお母さんのそばにいるから」

「アンタに男役が務まるわけないでしょ!? 馬鹿じゃない?

仕方なく養ってやるんだから、将来体で稼いで恩返しするくらいはしなさいよ!」

「うん。メイ、大きくなったらお母さんのために働く!」

ただ、抱きしめられたくて。

母親の笑顔に触れたくて、本音を隠してウソを付き続けた幼少時代。

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