幸せまでの距離

「メイ、ありがとう。

ここにいてくれて、ありがとう。

俺、幸せだよ」

睡魔に意識を持っていかれる直前、 メイ の耳に、リクの優しい声が聞こえた。

彼の手は、メイの手を柔らかくに ぎって いる。

“私、まだまだ生きていてもいいよ ね”

生まれて初めて、メイは素直にそう 思え た。

自分など、この世からいなくなったって 誰も困らないだろうと思っていたけれ ど、自分が思う以上に、自分の存在は他 人に影響を与えているのだと知った。

初恋相手のリョウにあんな手紙を書かせ たのは 自分。

ミズキを姉にさせたのも自分。

カナデが命を失わずに済んだのも自 分が 彼女に関わったから。

リクを山梨まで連れてきたのも自 分。

何もかも、他人が勝手にやっている こと であり、自分には一切関係ないと思って いたが、それは違った。

“私との関わりが、知らないところでみ んなを動かしてたんだ……”


思っていたより、孤独ではなかった 人 生。

気付けたことを、メイは幸福に思っ た。

今なら分かる。世の中には、自分の目に 入らなかった綺麗なもの、美しい感情 が、数知れず存在することを。











第5話《歩む先》 終
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