きのこうどん
母親同士は駅の時計を気にしながらもおしゃべりに夢中だ。
 
彼らの邪魔にならないよう離れた席にカバンを置いた。よく見ると足元には名も無き草がいくつか散っている。子どもたちが散らかしたのだろうか。風で入ってきたにしては新しい。
 
子ども達は待合室の中を2人で手をつなぎうろうろしながら、だんだん親のそばを離れて行く。
 
駅を出たり入ったり。嬉しそうな笑い声がボクの耳を刺激してきた。
 
時折、
「みーくん、もう少ししたらホームに行くからこっちに来なさい。」
と、母親が息子に大人しく待つ様、注意をするやり取りが見れた。
 
そんな様子を見ている限りじゃ長い時間、待たなくても済みそうだ。あと5分ってところだろう。
 
母親に声をかけられたにもかかわらず、子ども達2人はまだ、手をつないで外で遊んでいた。
 
今、彼らは愛の逃避行中なのだろうか。
 
それともちょっとした反抗期だろうか。

この光景、懐かしくもあり、ほほえましく思える反面、うらやましくも感じた。
 
足元にあった草をいじりながらボクは幼き彼らを眼で追った。
 
まだまだセミの鳴き声が聞こえ、道路の反対側にいる彼らの様子は熱気で揺らいで見える。
 
まだ夏が色濃く残る季節に笑いあう彼らはまるで自分の過去の姿でも見ているかのようでボクの幼い頃を思い出させる。
 
ボクの中で一番古い記憶はちょうど、この子達くらいの年のものだろう。
 
あの日は、きっとこれから先も忘れることのできない思い出だ。
< 11 / 92 >

この作品をシェア

pagetop