きのこうどん
保育園最後のお盆シーズン。
 
母さんたちの夏休みが始まったばかりのあの日、ボクはちこ達と行く人形劇の舞台に心を躍らせていた。
 
前日の夜は舞台会場の近くにある母の実家である山上じいちゃんの家に泊まり、心の準備を万全にしていた。
 
ちこに会うのが楽しみで前日の夜なんかはなかなか寝付けず、目を真っ赤にしながらはしゃぐにはしゃいだ。
 
当日も早朝から目覚め、うきうきが止まらなくてとにかくうろうろうろうろと、彼女がやってくる時間までひたすらに待っていた。
 
でも、5歳になったばかりの子どもには夜更かしはきつくその上早起きてもすぐに眠たくなっていつの間にか布団で転がってたんだ。
 
「アキト君!起きて!」
 
まるでいきなり蹴りでも入れられてかのような驚きで目が覚めた。
 
ちこが昼寝をしているボクを起こしに来たらしい。耳がジンジンと痛い。
 
この女、寝ている男に容赦しない。
 
「ちこ?何でいるの?」
 
ボクはまだ寝ぼけていて、彼女がここにいることが夢なんじゃないか?なんて思ってた。

ボクとちこの関係は幼馴染。ボクの方が少しお兄さんで年齢もひとつくらいしか変わらない。

ボクは彼女のことを「ちこ」って呼ぶ。水沢佐智子ってのが彼女の名前なんだけど、言いにくくって「ちこ」って呼んでた。
 
彼女はボクのことをアキト君って言っていた。ボクの名前が秋原明人だから。
 
小さい頃から仲良くしていたし母さん同士も同い年の幼馴染で、ボクらは特に仲が良かったんだと思う。
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