きのこうどん
汗ばんだ背中が冷たい。

「秋原のおじいさん、具合悪いのか?」

もうすぐ四十になるであろう胴着姿の担任のこめかみには
黄ばんだしみが数点。

中肉中背の立派なナイスミドルは
部活が始まる前だというのに竹刀の柄と同じ臭いがする。

「はい。そうらしいです。」

そう言ってボクは母さんからのメールを見せた。

少し前かがみになって携帯を持ち、
目を凝らしている胴着男は
近代にと言う場所に似つかわしくない。

多くの学校がそうであるように
ウチの高校も原則携帯電話使用禁止。
 
誰もが知っている学校の矛盾の一つで、
生徒が持っているのを見つけた後は

「校則で決まっているのだ」

などと一通り力説し、開放するのが彼らの仕事だ。
 
彼らは生徒達はほぼ全員所持していることを
知っているはずなのに毎日毎日。
 
そんなことされたところでされたところで、
携帯はなくならないし
それに、授業の合間、奥さんからの

「今晩、何食べる」

という内容のメールに飽きもせず
マメに返信を打ち続けている人間に注意されても説得力なんてあるはずもなく、
没収された生徒は

「恐妻家にとられた」

と後で笑いのネタにし楽しんでいる。

注意するほうは守らなくてもいい、
それはちょうどパトカーがスピード違反車を全力で追いかけても罪にならないのと似たような理屈で、この屁理屈で納得できるほどボクらは幼くない。
 
そんな程度の校則。
 
あえて言うならこの校則はボクらに程よいネタを運ぶために存在しているのだろう。
 
そんないつもなら理由なくダメだと言われるであろう携帯ルールも今日という日は特別だった。
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