月の大陸
閑話 愚か者
「愚かな龍よ。」


「黙れ。」


群青色の髪をなびかせて龍王は振り返った
その先にいるのは深紅の髪を頭のてっぺんで高々と結いあげた
長身の美女
その瞳は臙脂色に燃えている

「あの憐れ娘に味方するのか。
あのような子娘よりもミランダの方がよっぽどマシであろうに。」


「黙れと言ったのが聞こえなかったのか朱雀よ。
ミランダの心は汚れてしまった。
それを知りながら契約を結んだそちの方がよっぽど憐れであろう。」

龍王の言葉に朱雀はフンッと鼻を鳴らした

「わらわは力のある者と契約を結んだのだ。
清らかさなどどうでもよい。
下等な人間どもにわらわの力を思い知らせてやろうぞ。」


「そうはさせん。」

龍王は朱雀に向けて刀を抜いた
寸分の狂いも無く打たれた刃が水の龍を纏う

そしてその切っ先を朱雀に向けた

朱雀は大きく広がった袖でその刃を交わすと
一気に熱を開放した

朱雀は火の精霊王
その身に灼熱を宿し触れるもの全てを蒸発させるほどの力を持つ

刃に纏った水の龍がジュワッ…と一瞬にして消えた

「わらわとそちは天敵じゃ。
決して合いまみえる事は無い。その時が来たら容赦はせぬからな。」


「ふん。
その言葉そのまま返す。」


「水の精霊王…人間を愛し護る憐れな龍よ。
番(つがい)を決めてしまうとは…。誠、愚か。

弱きものを守ろうとするからそなたは弱いのだ。」


「守るべき者を見つけられぬそちこそ不憫だな。
守るものがあるから強くなれるのだ。」

最後に零れた龍王の言葉を聞く事なく
朱雀は消えていった


龍が愛せるのは生涯ただ一人
その唯一は「番」と呼ばれ
たとえ番に愛されなくても龍は一度決めてしまえば
ただ無償で愛し続ける

龍王は朱雀が消えた後もその場所から動かなかった

「愚か…か。
そんな事言われなくてもわかっている。」

どこか遠くを見るその碧の瞳
そして
その姿は透明な波紋を残して消えていった
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