夜籠もりの下弦は恋を知る


 彼らはまず旧都、福原に逃がれた。


「全く、重衡様ったら…妙なところで真面目になられて…困ったものです」

久々の福原での夜。

さざ波の音色に耳を傾けながら、輔子は夫の行動を思い出して無性に腹立たしくなった。


都を出発する前のわずかな時間に、重衡は今まで関係を持っていた女房たちに別れの挨拶巡りをしてきたのだ。

女房たちにとってアイドル的存在だった彼。

その都落ちを悲しまない女房はいなかった。

皆、さめざめと泣き、重衡を見送った。


「お別れも言わずに立ち去ってしまうのは不躾(ブシツケ)というもの。わかって下さい」

(うう~…)

わかっているが、結婚しても衰えることのない重衡の人気ぶりをまざまざと突き付けられ、かなりショックなのも本当で。


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