夜籠もりの下弦は恋を知る
ムッとなりプイッとそっぽを向いた輔子に、重衡は子供を諭すような調子で語りかけた。
「可愛らしい方。どうか、お怒りをお鎮め下さい。私がお連れするのは貴女だけ…。他の女房とは別れられても貴女だけは離さない私の愛を、もっと信用なさって下さい」
輔子とて、自分への彼の愛を疑っているわけではない。
けれど、嫉妬心を抱かないほど大人な広い心を持ち合わせていないのは彼女自身がよくわかっている。
輔子は口を開く前に重衡に寄り掛かった。
「輔子?」
「…お慕いしております。重衡様」
小さく呟き、心に思う。
――誰よりも…