夜籠もりの下弦は恋を知る
重衡は体力の限界を訴える妻を抱きしめた。
「許しませぬ!私はそのようなこと、決して許しませぬぞ!!何故愛しい妻を見捨てて生きながらえることができましょう!?輔子、我が身に替えてでも、貴女をお救いします!かような場で死なせるものか!!!!」
すると、重衡は自分の背に彼女をおぶり、歩き出した。
「し、重衡様…!?降ろして下さりませ、重衡様!」
「黙っておれ!!!!」
夫の本気の恫喝(ドウカツ)に、輔子はビクリと身を震わせた。
「…苦しむならば、諸共に…」
彼の言葉に、輔子は目を見開いた。
「貴女の言葉は、偽りだったのですか!?私にはその思いを貫かせてはくれぬのですか…!?」
「し…げ、ひら…さま」
輔子は泣いた。
自分の足だって血に塗れているだろう重衡。
彼の愛情が、今はひどく苦しく、切なく、そして何より嬉しかった。