夜籠もりの下弦は恋を知る

「さあ、掴まって下さい。もう少しですから、頑張りましょう」

「はい…」

重衡の手は冷えきっていた。

そんな夫の手をしっかり握り、立とうと試みる。


「ぁうっ…」

しかし、立てなかった。

「輔子…?」

心配そうな眼差しを向ける彼に、輔子は諦めたような表情を見せた。


「重、衡様…私はもう、立てませぬ…。どうか、私のことは捨て置き下さいませ」

「なっ!?」

「この足では…これ以上、山道を行くのは無理です。ですから、輔子のことは気にせず…先へお進み下さい」

「輔子!?」

「申し訳ございませぬ。ずっと、お側にいると約束しておきながら…私は、ここまでのようです…」

「本気でおっしゃっているのですか!?輔子!」


< 140 / 173 >

この作品をシェア

pagetop