夜籠もりの下弦は恋を知る
「さあ、掴まって下さい。もう少しですから、頑張りましょう」
「はい…」
重衡の手は冷えきっていた。
そんな夫の手をしっかり握り、立とうと試みる。
「ぁうっ…」
しかし、立てなかった。
「輔子…?」
心配そうな眼差しを向ける彼に、輔子は諦めたような表情を見せた。
「重、衡様…私はもう、立てませぬ…。どうか、私のことは捨て置き下さいませ」
「なっ!?」
「この足では…これ以上、山道を行くのは無理です。ですから、輔子のことは気にせず…先へお進み下さい」
「輔子!?」
「申し訳ございませぬ。ずっと、お側にいると約束しておきながら…私は、ここまでのようです…」
「本気でおっしゃっているのですか!?輔子!」