夜籠もりの下弦は恋を知る

「はあ…こんな自分が…憎らしい…」

嫉妬。

側室でもない相手にそんな感情を持つ自分を、情けなく思う。

でも、仕方ない。

胸中に生まれる黒い炎は自分の意思で簡単に消えるものじゃない。

理性と感情の狭間で悩む輔子。

悩んだ末、答えは出ず、最終的にある歌を紙に書き付けた。

「次に重衡様がお通いになられたら、絶対渡して差し上げよう…!」

何やら意気込んでいるが、その文字は優美なものである。

「…良し!」

書いたものを忘れないよう文机の上に置いたまま、その夜、輔子は夫を待たずに眠りについた。









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