ミルクの追憶





――なぁ、知ってる?

ある日、二コラは悪戯そうな顔をしてクロエに尋ねた。


「チェリーニのヴァイオリンの話」

「なぁに?それ」

「弾き手が次々と非業の死をとげるといわれる呪われたヴァイオリンのこと」

「やだ、ジンクス?」

「これは本当の話だよ。本物は博物館にあるんだ」

「それじゃあ安心ね」


そんな悪魔のヴァイオリン、もし誤って誰かが弾いてしまったらどうしよう。

そう思って身震いしていたクロエはほっと胸を撫で下ろす。

けれど二コラはにやりといっそう笑みを深めて話を続けた。



「だけどね、そのときヴァイオリンを作った職人が、同じ時期にもうひとつヴァイオリンを残していたんだ。……これは知られてない話」

「……それで、そのヴァイオリンは、」


同じように弾き手を死へといざなうのかと、クロエは聞きたかったのだ。





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