ミルクの追憶
蝋燭の灯された大広間。
そこを横切って奥の部屋へと迷わず進む。
半開きの戸をそっと押し開けると、中は真っ暗だった。
「……」
美しく哀しい旋律は少女が入ってきても止むことはない。
ヴァイオリンを飼い慣らしてその声を紡ぎだしているのは黒髪の少年だった。
窓辺を向いてひたすらに曲を奏でる彼の後姿に、そして何よりその激動の“音”に魅了され、金縛りにあったかのように少女は動けないでいた。
満月が窓の向こうで妖しく輝いている。
少年の音色にときめいてご機嫌がいいようにもみえる。
「すご、い、」
たまらず口にしたその声に少年が振り向いた。
ぴたりと音はとまり、二人の間を静寂がなめらかに這う。