オレンジ
「…いい?」
あたしを見下ろす彼が尋ねる。
あたしが頷くと、彼の感触が、あたしのそこに触れる。
「力、抜いて?」
そう言われても、身構えてしまうあたしに、彼は優しくキスをした。
「…彩乃」
あたしの目を見ながら、ふいにそう呟いた彼を見つめる。
「…って、呼んでいい?」
「…なんで、急に…」
「こんなときじゃなきゃ言えなくて。ヘタレだから、俺」
そうおどけて言う彼に、思わず笑うと、お腹の下で違和感が増した。
「いっ…たい…」
「ごめん、もうちょっと我慢して?そのまま、力抜いてて」
ずん、という重みと、鈍い痛みが徐々に広がる。
思わず、あたしの首の横に置かれていた彼の腕を掴む。
初めて感じる痛みに、顔が歪む。
その顔を見られたくなくて、あたしは顔を横に背ける。
「…あ」
彼が言うと同時に、あたしのお腹の奥に何かが当たる感触がした。
「ちゃんと見て、こっち」
あたしが言われた通りにすると、彼はにっこり微笑んでいた。
「入ったよ?もう平気っしょ」
まだ、痛みは続いているけれど、その言葉と笑顔に、ほっとしてあたしは頷く。
彼はゆっくりと動き始めて、そのたびにまた痛みが拡がる。
あたしは彼の首にしがみつくみたいに、必死で腕を伸ばした。
目が合うと、引き寄せられるみたいにキスをする。
キスをしていると、痛みが和らぐ気がした。
気持ちいい、と言うより痛みの方が強いのに、心は苦痛よりも幸福に満たされていく。
伸ばした手に触れる、彼の髪の毛の感触。
のしかかる体重も、そこから伝わる体温
も、汗の匂いも、熱い息遣いも、お腹の奥に刺さる痛みも、何もかも全部を抱きしめたくて、あたしは両腕に力を込めた。