オレンジ

「…あれ、俺、煙草…あ、ポケットか」

そう言って、床に脱ぎ捨てられていたデニムのポケットから煙草を取り出して火を点ける。
あたしは、首の後ろに置かれていた腕が抜かれてしまって少し寂しい。

「なんか、飲む?」

あたしが頷くと、彼はパンツとデニムだけ履いて、煙草をくわえたままキッチンへ向かった。

水のペットボトルを2本と、灰皿を持って戻った彼は、1本あたしに手渡し、灰皿を手に持ったままベッドに腰掛けて煙草を吸った。

「危ないよ、ベッドで煙草」
「うん、知ってる。だからここには灰皿置いてないっしょ?」
「…そうだね。じゃあ、なんで?」
「…今は、ここに」

そこまで言うと彼はグスンと一回鼻を啜って、言い直した。

「彩乃の隣に、いたいから」

そして、まだ半分くらい残っていた煙草を揉み消して、あたしの方に向き直る。
横になっているあたしの、少しはみ出していた肩に布団を掛け直すと、頭を撫でた。

「…好きだよ」
「…………」
「俺は、Hすんの初めてじゃないけど、でもたぶん、終わったあとこんな、なんかすげー幸せな気分になったのは、たぶん初めて」
「…………」
「…な、気がする」

彼の発する言葉のひとつひとつが、あたしの身体じゅうに染み渡る。

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