オレンジ

その質問に正直に答えることは、一瞬躊躇われた。
俺は煙草に火をつけ、深呼吸をする。

「…離婚、するらしい」
「…え?」

案の定、少し穏やかになっていた彩乃の表情が、また曇り始めた。

「…それって…」
「………うん」

ここまで話してしまえば、あとはもう隠しようがないし、隠したところで彩乃にだっておそらくわかる。
そう思い、俺は頷いた。

「離婚の理由は、旦那の浮気らしい。…で、また、俺のとこに連絡寄越したのはたぶん、俺ならどうにかしてくれるって、思ってんだと思う」
「……………」
「でも、安心して。俺はミナミとやり直すとか、今もミナミを好きだとか、そういうのは、一切ないから。…ただ」
「…ただ?」

いかにも不安げに、潤んだ瞳で俺を見上げる彩乃。
まるで、捨てられた子犬のようなその表情が、一瞬ミナミのそれと重なる。

「…ただ、あいつ、頼れる奴が他にいないんだ」

ミナミは、小さい頃からあまり心も身体も丈夫なほうではなかったらしい。
だから、学校も休みがちだったりしたので、そこまで深く関わり合っているような友達はいなかった。
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