オレンジ

そんなミナミが、唯一頼れる存在が俺だったのだとしたら、俺はそれに答えてやりたい。できる限り。
そうしないと、俺がここで受け止めてやらないと、ミナミはきっとまたー

「ただ、話を聞いてやってるだけなんだ。本当に」
「……それって、でも、ミナミさんはまだ、拓真のこと」
「…だとしても」

俺は、煙草を消して、彩乃の手を握る。
彩乃は、今度は振りほどかなかった。

俺は彩乃を見て、言った。

「もし、そうだとしても、何も変わらない。俺が好きなのは、彩乃だから。…彩乃だけだから」
「…………」
「ミナミとのことを黙ってたのは、余計な心配させたくなかっただけだから。…それだけだから」

嘘じゃない。

ミナミといて、ミナミの言葉に惑わされ、揺れている自分も、確かにいたのだけど。
でも、今こうして彩乃を目の前にすると、ミナミを前にしたときの気持ちとは似て非なる気持ちだと気付く。
ミナミには、過去に傷つけてしまったことへの申し訳なさは感じても、これから先傷つけてしまうことの怖さは感じない。

それはたぶん、ミナミとの「これから」が見えないからだ。
彩乃は、違う。

今泣かせていることの罪悪感、これまで
隠してきたことの後ろめたさ。
それと同時に、これから先に、俺の行い次第で、また泣かせてしまうかもしれない、という恐れと、それは絶対にしてはいけないという、覚悟。

< 171 / 207 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop