オレンジ
男の声だ。

「あ、もしもし!あの…えっと、椎名ですけどっ」

しまった。
テンパりすぎて、中途半端に名乗ってしまった上に、意味不明。

「…はい」
「あ、ごめんなさい。あの、あたし、椎名彩乃(しいなあやの)という者なんですけど。えっと、携帯…あ、あの、どちら様ですか?」
「そちらこそ、どちら様ですか?」
「えっ?えー、と、だから…」
「…くっ」

え?

この人、笑ってる…?


「嘘。ごめんなさい。シイナアヤノさんね。で、なんのご用ですか?」

受話器の向こうの男の声色には、明らかに笑いが含まれている。

いくら声を押し殺していても、受話器越しですらはっきりとわかるほどに。

それは、あたしの神経を逆撫でした。
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