オレンジ

そう言って立ち上がったあたしに、彼は何も答えず、あたしの腕を掴んで歩き出した。

「ちょっと、何…つっ…!」

靴擦れで見事に皮が剥けた踵に、焼けるような痛みが走って思わず立ち止まった瞬間、ばっ!と音がしたんじゃないかと思うくらい勢いよく、彼が振り向いた。

「何、もしかして、足?捻ったりした?」
「え…や、そうじゃなくて…」
「歩くのキツイ?」
「いや…えっと…」

正直なところ、この靴で、今の状態で歩くのは辛い。
だけど言うのを躊躇っていると、彼が何かに気付いた。

「あそこまで、頑張れる?」

そう言って指差したのは、ここから二軒過ぎた先で、シャッター街の中で殆ど唯一の灯りを煌々と灯しているコンビニだった。

「…はい。でも」
「でも?」
「離してもらって、いいですか」


そう言うと、少し傷ついたような表情で、彼は掴んでいた、あたしの左腕を離した。

「…ごめん」
「いえ、あの…」

あたしは少しだけ躊躇ったけれど、おずおずと左手を出し、彼の右腕に掴まる。


「…こっちのが、歩きやすいんで。こうしてても、いいですか」
「…ん」


恥ずかしくて、顔は見られなかった。

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