オレンジ
それを理性と呼ぶのかもしれないけど、俺の中での感覚としては、理性というより俺の感情そのものだったように思う。
「抱き締めたい」と思った俺を諭す、もうひとりの冷静な俺。
あのとき確かに、その相反するふたつの感情が、俺の中に存在していた。

いずれにしても、あの時あの場で彼女を抱き締めることは、違うと思った。
俺にとっても、彼女にとっても。

だから、いわゆるデートとしてはやや歯切れが悪いというか、不完全燃焼というべきか、物足りなさを残して終わってしまった。

今日のデートを、彼女が受け入れてくれたときから、俺は決めていた筈だ。
デートをしてくれるなら、その時に面と向かって、今までのことやこれからのこと、俺が彼女をどう想っているのかを、全て包み隠さずに打ち明けようと。

それなのに、このザマだ。

いや、そうじゃない。
俺は確かに、伝えた。
けれどそれに対する彼女の反応が、俺の予想していたものとは違っていた。
それだけだ。
そのことに、俺は納得ができていない。
だからこんなに後味が悪いんだ。

デートを受け入れてくれたことは、つまり、俺の気持ちそのものを受け入れてくれたことだと思い込んでいた。
少なくともこれまでの俺の経験上、デートOKイコール「付き合ってもいいよ」だった。
その図式に、どうやら彼女は当てはまらないらしい。


< 82 / 207 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop