オレンジ

こんなデートなんて、どれくらいぶりだったかな。
ドライブして、砂浜歩いて、かき氷食って、8時に解散、とか。
健全すぎんだろ、と、自分に突っ込む。

自慢をするつもりはないけど、これまでそれなりにモテてきたと思っていた。
もちろん何人か、彼女だってできたことはあるし、だから、女の扱いにだって別に不慣れなわけじゃない、つもりだった。

「ダッセェな、俺」

呟きながら、煙草を揉み消していると、食事を終えたショコラが鼻をくんくん言わせながら俺のあぐらの間に身体をねじ込ませるようにして、すり寄ってきた。
そのモコモコした手触りを確かめるように、背中を撫でる。

そもそも今回は最初から、自分の思うようには事態が運んでくれない。
最初の出会い方にしても、もうちょっとうまくできた筈だった。
今日だって、あのまま勢いで、抱き締めるくらいのことはしてもよかったんじゃないのかと、今になって俺は思っている。
いつもの俺なら、そうしてたような気がする。

でも、そうしなかったのは、そうさせない何かが働いたからだ。

助手席で「楽しかったです」と、少し震える声でそう言った彼女を、今すぐ抱き締めたい衝動に駆られたのは確かだけど、俺がそれを行動に移さなかったのは、単純に理性が働いたからではない。

「違う」と、言った。
それは、俺の理性というよりも、俺そのものが。
「抱き締めたい」と思った俺に、「今は違うよ」と言った俺が、あの時いた。


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