とっておきのSS
小さな異邦人


 金曜日の夜、定時で会社を出て買い物を済ませると、家に帰った結衣は早速ケーキを作り始める。

 毎週金曜日の夜八時頃にロイドが迎えに来るのだ。それまでに風呂と食事も済まさなければならない。

 今日のケーキはロイドお気に入りの濃厚ガトーショコラだ。甘いもの好きのロイドは、特に日本のチョコレートを気に入っている。

 クランベールのショコラも海外のチョコレートも、それなりにおいしいとは思う。
 けれど食べ慣れているせいかもしれないが、やっぱりチョコレートは日本のが一番おいしいと結衣は思っていた。

 そのおいしい日本のチョコレートを使い、小麦粉を使わず粉はココアパウダーオンリーで仕上げた、チョコの風味濃厚なガトーショコラは結衣の自信作なのだ。
 結衣も大好きだが、ロイドが気に入っているのでよく作る。

 ケーキをオーブンに入れて、その隙に手早く風呂を済ませる。
 風呂から上がると、まだオーブンは働いていた。

 カウントダウンしているオーブンのタイマーを見ながら、結衣は会社帰りにコンビニで買ったサンドイッチを頬張る。
 ちょうど食べ終わったと同時に、オーブンのアラームが鳴った。

 時刻は七時半。ロイドがやって来る頃には粗熱も取れているだろう。

 結衣は台所から奥の部屋に移動して、身支度を調えベッドの縁に座る。

 ロイドに会えるのも話をするのも週に一度だけ。もうすぐ彼がやって来ると思うと、それだけでうきうきした。

 ぼんやり待っているのも退屈なので、読みかけの本を開く。しばらく座ったままで読んでいると、次第に首や背中がだるくなってきた。

 ベッドに寝そべって、改めて本を開く。うっかり読みふけってしまって、ハタと気付くと八時半を過ぎていた。

 今日は少し遅い。科学技術局に行って、副局長に捕まってしまったのかもしれない。これまでも何度か、遅れた事があった。

 少し気になったが、別に外で待ち合わせしているわけでもないし、異世界では連絡の取りようがないので、結衣は待っている事しかできない。

 そのまま再び本を読み始めると、いつの間にか睡魔に囚われてしまっていた。

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