ダイアモンドリリー
「全く、、、!!どうなってるんですか最近の若い子は!!」
ここはスーパーの従業員の控室だ。
説教しているのはこのスーパーの店長らしい。
その正面で並んでいるのは先ほどひと悶着起こした本人2人とカートに乗っていた少女、そしてなぜか止めに入った店員。
床をへこませた罪はあるだろうが
「だいたいスーパーは食べ物を買うべきところであって、、、」
などどこのような内容の説教を受けるべき理由はどこにもない。
ガミガミとさっきから同じことを何度も繰り返す店長にしびれを切らせたゆなが小声で
「2人のせいで私まで怒られちゃったじゃない」
「な、、、ほんとの被害者は僕ですよ!止めに入っただけなのにフェルが、、、」
「あぁ!?俺がなんだって!?」
「まあまあ3人とも、およしなさいほらアメあげるから、ね、」
さっきとは態度が打って変わっておとなしくなった店員が飴を探してポケットをあさる。
「だいたい!この時代にスーパーに行ったことがないなんて!!親はどういう教育をしてるのですか!?」
また始まった。
「てゆうかババア、なんでこんな所にいるんだよ」
「そうですよ、バイトしてるなんて聞いてません、お金がないなら僕たちがやるのに」
そう。止めに入った店員は施設の設立人でみんなの母的存在、保護者として一緒に説教の洗礼を受けているのだ。
「ちがうのよ、お金がないわけじゃ、、、うふふ、、、秘密よ、、」
「ちょっとあなたたち!!聞いているのですか!??」
またまた始まった。
問題を起こした本人たちは無になる覚悟で耐える。
母はというと相変わらずニコニコ聞いていて、きっと、いや確実にこの人が一番反省してない。
キレると周りが見えなくなって昔大阪でやんちゃしてた頃の血が騒ぐタイプ。
とりあえず店の物は弁償という形で丸く収まった。
帰り道、太陽が夕日になりかけてあたりは茜色、空は温かそうだが雪はまだまだ溶けない。
「ところで、なぜ急にスーパーに行くことに?3人だけで心配じゃない」
「何言ってるんですか、買い物くらいできますよ、子ども扱いしないでください!」
「まあでもいいんじゃねーの?勉強になったし、、、って、おいゆな、、!!」
なんだか和やかな空気になっている3人とは裏腹にゆなは浮かない顔。
不意に施設とは反対のほうへ歩いていくのをフェレが腕をつかみとめた。
「どこ行くんだよ、そっち道ちげーぞ!」
「、、、帰りたくない」
「、、、またか、そう言っていつも何日も帰って来ねえで死にかけで帰ってくるじゃねーか、帰るぞ、ほら」
駄々をこねる子供をあやすようにフェルが話すが俯いてしまっているゆなは
「離して」
「嫌だ」
「フェル」
「嫌だ」
「離して!!!」
「ゆなちゃん!!」
流石に黙ってるわけにもいかず母が口をはさむ。
「、、、そんなに施設嫌いなの?ごめんね、あんまり帰ってあげられなくて、、、」
違う、そんなことじゃない。
ゆなはたまに帰ってくる母を基本的に避けていた、家に帰ってこない日もあった。
「あんたが嫌い!!」
「ゆな!!!!」
思わず声を荒げるフェル。
ゆなの体が一瞬びくっと震えるがいつもの威勢はすぐに戻ってくる。
大きな男の手を無理やり引き離して施設とは反対方向の道を走って行った。
「女の子1人引き留められないなんて、さすが僕の兄、、、」
「うるせえ、、」
ゆなも気になるが視界に入るのは明らかに肩を落とし落ち込んでいる母だった。
2人は顔を合わせ互いにうなずくと、変な汗をむき出しにしながら笑顔を作った。
「だ、、、大丈夫だって!、、そのうちハラ空かして帰って来るって、、おいババア、元気出せよ、、、!」
「そうですよ、今日の夜にでもひょこっと、、、たぶん、、、あとで僕たち探しに行ってきますよ、、、!」
「2人とも、、、そうよね!食べ物につられて焼き芋の車に忍び込んで隣町まで行っちゃったことあったものね!!お腹がすけば帰ってくるわ!!」
そんなこともあったか。
ゆなは後で探しに行くとして、とりあえずいったん施設に帰ることにした。
「おい、お前家からずっと俺のことつけてただろ」
「あは、!ばれた?女の尻ばかり追いかけてるバカ兄貴だと思ってたけど多少は使う脳もあったのか」
弟の隠れドSを知っているのは今のところフェルだけのようだ。