美容師男子×美麗女子

「ねぇ、俺の家来ない？」


注文していたワインを、アキラがあおる。

あまりに唐突すぎて、空になったグラスにワインを入れるのを忘れてしまったくらいだ。


「は？」

「俺も、話がしたい」


アキラの目は真剣だった。


「え、いやいや、なんで仕事してるのにそんな、」

「だって、こうでもしないとアヤカは言うこと聞いてくれないでしょ？」


はっとした。

そうだ、今はアキラの立場が上なんだ。

お客である以上、何もいえない。


「ちょっと、ずるい。そんな気分じゃないんだけど」

「何もしないって」


へらりと笑ってみせるアキラ。

この男は、どこまでが本当でどこまでが嘘なのかが全く分からない。


「ねぇ、そこの」


アキラがワインを飲み干しながら、酒を運んでいたボーイに声をかけた。

さっきまでは態度が悪かったあのボーイも、営業となったら気持ちのいい青年になっているから人間って怖い。


「お持ち帰りで」


ちょっと、まだ何も言ってない、という声を殺した。

ボーイが笑顔で頷いた。

そんな、まだだってあたし、３時間くらいしかお店に出てないのに。