美容師男子×美麗女子


「じゃあ、行こうか」

「え、ちょっと待って、本当に?あたし、ほとんど仕事してないんだけど」

「気にしない気にしない」


アキラに手を引かれて、あたしは渋々立ち上がった。

まだボトルにワインが入っている。


アキラは勘定を済ませると、あたしの肩を抱いて店を出た。

レジを担当していた店長を見ると、店長は何の気なしに親指を立てて見せて、口パクで「ラッキー!」とだけ言った。

一瞬睨み付けそうになったけど、そこは笑顔でかわした。


外の冷気が生肌にこたえる。

アキラの車の助手席に座って、車は発進した。


「まぁ、そんなに不機嫌にならないで」

「あのさぁ、持ち帰りなら事前に言ってもらわないと困る。それも仕事の途中で」

「だから、それだとキミが逃げるでしょ?」

「でも、」


アキラが子供を見るような目であたしを見たから、口を閉じた。

なんか、大人に負けた気分だ。


「アキラの家って?」

「まぁ、こんな都会じゃなくて、住宅街の中かな。普通だよ」


ぼんやりと窓の外を眺める。

隣では彰が煙草を吸っていた。

窓に流れる紫煙を目で追いながら、彰の姿を見た。

煙草が似合ってる。喫煙している彰を見るのは初めてかもしれない。


都会の夜は明るすぎて、夜に思えないから不思議だ。


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