仮からはじまる

「文句があるなら俺に言えよ。くだらねーことこいつに言うんじゃねえぞ」

こいつって、あたしのことよね?
くだらないことってなんなのよ。
もうちょっと言い方ってものがあるでしょ?

あたしのために言ってくれてるのはわかるけど…。
こ、怖い…。

「こいつに何かしやがったら、そんときはどうなるか…」

だから…。
最後まで言わないのが余計に怖いのよ。

「あははー、どうなるんだろうねえ?」

場違いなのんびり口調の平野篤がのんきに言う。

「シン、怖いよねー?」

それって念押ししてるの?
脅してるの?
平野篤は笑顔だけど、ますます怖いじゃないっ!!

よっぽど怖かったのか、集まって取り囲んでいた人たちは、さあーっと離れて教室に戻って行く。

残されたのは、結城真一と平野篤とあたしだけ…。

「おまえ、大丈夫かよ?何もされてないのか?」
「え、ええ、大丈夫よ」

何かされる前に、あなたがみんなを脅すから。

「ならいいけど、気を付けろよ?」
「うん、ありがと…」

返事はしたけど。
何に気を付けたらいいの?

「唯ちゃん、大丈夫?」
「うん、大丈夫。ほんとに何もされてないから」
「違うよー、そうじゃなくて。シン、みんなの前で付き合ってるって言っちゃったけど、大丈夫なの?」

ああ、そのことなら…。

「いいのよ、はっきり言ってくれて。これですっきりしたわ。変な噂でこそこそされるのは嫌だから。それよりよっぽどいいわ。また助けてもらっちゃったわね、ありがと」

結城真一と平野篤は少し驚いた表情だけど

「それならいいよね?」
「ああ、そうだな」

そう言って受け入れてくれたみたい。
< 40 / 48 >

この作品をシェア

pagetop