青のキセキ
「綾には申し訳ないと思う」

私のほうを見ながら、課長が言った。


「でも俺は、美空が好きだから」




「課長...」



心が震えた。課長が好きすぎて。




でも、課長の立場を考えると...。離婚して私と付き合うなんて、周りが放っておくわけがない。課長の立場が悪くなるだけ――――――。


私は何を言われても構わない。
でも、私のせいで、課長が悪く言われるのだけは嫌だ。



それに、今日までの課長を支えてきたのは綾さんだ。

課長のことを愛している綾さん。課長の赤ちゃんを望んでいる綾さんを苦しめていいの?


ううん。やっぱりダメだよ。






「やっぱり離婚なんて駄目...」


「遥菜ちゃん?」


「だって、綾さんは課長を愛してるんだよ?課長の赤ちゃんが欲しいって言ってたの。なのに、私のせいで綾さんの人生を狂わせることなんて出来ないよ...」


「美空...」


「課長が私を好きだと言ってくれて、すごく嬉しいです。でも、今は課長のそばにいられるだけで十分です。だから、しばらくは今のままでいませんか...?」



私は卑怯だ。


綾さんのことを思うと胸が痛い。でも、課長のこのぬくもりを手放すことができない。


綾さんを苦しめることに変わりはないのに。


自ら『不倫』という間違った関係を選ぼうとしている。





「遥菜ちゃん、それでいいの?」


翔さんが心配そうな表情で私を見た。


「きっと、遥菜ちゃんにとっても、大和にとっても辛い恋になるよ」


「分かってます」


「大和はそれでいいのか?」


「......」


何も言わない課長。



もしかして、怒った?私が勝手なこと言ったから。



自分でも分かってる。


課長を苦しめるだけだって。



でも、それでも。離婚なんてことになって、課長の立場が悪くなることが怖かった。みんなから信頼されて、ほかの男性社員からも憧れの海堂課長。その課長が離婚して部下と付き合うなんて...。


私さえ我慢すれば、今の課長の立場を守ることができる。


課長のためなら、私は我慢できる。





「美空の考えてること、全部わかってるよ」


しばらく間を開けて、課長が話し始めた。



「お前は、俺の立場を考えてくれてるんだろう?お前はそういうやつだからな」

そういうと、課長はふぅと溜息を一つ吐いた。



「俺の考えを話すよ」


そう言うと、課長は私の手を改めて握りなおした。




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