青のキセキ
足早に歩を進めながら、炊事場へ行くと、蛇口から水が出ている音が聞こえてきた。


ふと見ると、こちらに背中を向けて立っている美空が目に入った。どうやら、コーヒーカップを洗っているらしい。


美空の後姿が、痛々しくて、言葉をかけられず。




美空の泣き顔は、もう見たくないと思った。


笑顔が見たいと思った。


美空は俺が守ると、そう思ったのに。





今の俺は、何もしてやることが出来ない。





カップを濯ぐ美空の手が止まったかと思うと、肩を震わせ、時々漏れる嗚咽の声が聞こえてきた。




「美空...?」




小刻みに震える美空の肩。必死に泣くのを堪えようとしている姿を目の当たりにし、俺の心は鋭い剣で刺されたかのように痛くて...。



声を掛けると、肩をビクッと跳ね上がらせた美空。





「すみません」



と謝る彼女。





もう少しで片付け終わるという彼女に、背後から声をかける。



「大丈夫か?」



此方を向こうとせず、下を向いてカップを布巾で拭き、もうすぐ終わると言う。




違う。俺が聞きたいのは、そういう事じゃない。





お前が心配なんだ。お前がどれ程傷付いているのか、どれ程の痛みに耐えているのか...。










「大丈夫です」





はっきりとした口調で美空は言った。







嘘だと分かってるのに。




それ以上、俺は何も聞けなくなった。





















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