青のキセキ

給湯室の片付けを終え、帰る準備をする。


部屋の中には、部長と課長、私の他に数人。


「お先に失礼します。お疲れ様でした」


なるべく課長を見ないように挨拶をして、私は企画部の部屋を出た。





この後、修一さんの待つホテルへ行くべきか悩みながら、エレベーターまで歩く。




嫌だ。


行きたくない。


でも、行かなきゃ時計を返してもらえない。




――――その時。





「美空」



後ろから私を呼ぶ声がした。



胸が、心が。切なくて痛くて。



愛する人が私を呼ぶ声。



「下まで一緒に行こう」







エレベーターの中。


二人きりの空間。



やっぱり、言おうか。


だけど、今から綾さんと会うんだよね...?



一人、心の中で葛藤する。



「美空、約束って何だ?」


不意に課長に聞かれ、一瞬動揺した。



「?」


「さっき言ってただろう?今日約束があるって」


横目で私を見ながら、課長が言った。


「え?あぁ...」


課長に打ち明けるのなら、これが最後のチャンス。


「実は...今か....」



ブブブ...


話そうとしたときに、課長の胸ポケットから聞こえた携帯が震える音。


携帯を取り出して画面を見た課長の顔が険しくなった。



綾さんからだと、直感でわかった。


......言えない。





「......これから、知り合いに会わなきゃいけないんです。ただ、それだけです」


課長の目を見られず、俯き加減で言った。







さっきもそうだった。


課長に打ち明けようとしたら、石川さんが課長を呼んだり、今も綾さんからメールが来たり。




まるで、何かに邪魔されているみたい。



課長に言うなってことなのかもしれない。







そして。


課長は綾さんのものなんだと、改めて思い知らされる。


















< 461 / 724 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop