青のキセキ
無言の二人。
「すまない」
沈黙を破ったのは、課長だった。
「な...何がですか?」
涙が出そうになるのを堪えながら、震える唇の端を無理矢理に上げて、平静を装う。
「出張が終わって帰ることになったと綾に電話をしたとき、ちょうど今日が綾の誕生日だという話になって、会う約束をした。一緒に過ごせなくて本当にごめん」
目を伏せて、切なそうに謝る課長。
「奥様の誕生日をお祝いするのは当然じゃないですか。課長が謝る必要なんてないのに...」
精一杯の強がり。
「それに、私も今日は約束があるんです。だから、気にしないで下さい」
ちょうどその時、終業時刻を知らせるベルが鳴った。
「私、これ、やってしまいますね」
涙が溢れ出る前に課長に背を向けた私は、蛇口を捻り、洗い物の続きを始めた。
「...美空、何か話があったんじゃないのか?」
背後から課長に聞かれたけれど、
「......大したことじゃないから。だから、大丈夫です」
私は、そう返事をするしかなかった。
今日が綾さんの誕生日だと知って。
しかも、一緒に過ごすと知ってしまったから。
私が修一さんのことを言ったら、課長は間違いなく「行くな」と言ってくれる。
でも。
もうすぐ綾さんが来ると聞き、修一さんのことを課長に相談できるほど、私の立場は強くない。
課長が優先させるべきことは、綾さんだから。
だから、大丈夫だと。
そう言うしかなかったんだ。