青のキセキ
「待ってたよ」
開いたドアの隙間から、修一さんが見えた。
固まる体。
「とりあえず中に入れば?時計、返して欲しいんだろう?」
「......」
彼に促されるまま、無言で部屋に入る。
部屋に入ると目に入った、ソファと大きなベッド。
心拍数が、さらに速度を上げる。
背後に、彼の気配を感じて恐怖で足が震えた。
「時計を返して下さい」
振り返りながら言う。
「まあ、待てよ。時間はたっぷりあるんだし、久々に二人の時間を堪能しようぜ」
ソファに深く腰を下ろし、ワインを飲みながらニヤリと口角を上げて言う彼。
「それにしても、驚いたよ。まさか、遥菜と再会するなんて思ってもなかったからさ」
「......」
「研修が終わって帰国したら、お前、病院も辞めて、引っ越しもして。携帯も変えてたから連絡の取りようがなかったし。あ、誤解すんなよ。別に、よりを戻したかったわけじゃない。向こうで知り合った美咲と付き合ってたし。ただ、俺と別れたことを後悔させてやろうと思っただけ」
「後悔...?」
「ああ。金持ちの娘と付き合って、出世した俺をお前に見せつけたかったんだ」
.........。
言葉が出ない。この人は何も変わっていない。
私に暴力を振るい、流産させたこと覚えていないの...?
あなたが大事なのは自分だけ。
昔も今も。
結局、自分のプライドを傷付けた私が憎いんだ。
これ以上、彼と話をしたくない。
「時計はどこですか?」
足が震えるのを我慢しながら、彼の目を見て言った。
「そんなに慌てるなって。あの時計、好きな男にでも貰ったの?」
ソファに座ったまま、私を見上げるようにして彼は言った。
「......」
「どんな奴?」
「あなたには関係ないでしょ...」
私が、どんな人と付き合おうが、何をしようがあなたには何の関係もない。
「そいつと寝た?」
「...え...?」
一瞬、何を聞かれたのか分からなかった。
「その男とヤったのか?」
音を立ててワイングラスをテーブルの上に置きながら、私を睨みつけるようにして聞く彼。
「あなたに...関係ない...」
怖い、怖い、怖い。
「関係あるよ。だって、遥菜の初めての男は俺だよ?」
「止めて!」
聞きたくない。
「本当のことだろう?俺がお前を『女』にした。他にも色々と教えてやっただろう?」
両手を耳に当て、首を横に振る。
修一さんの言葉を聞かずに済むように。
瞳を閉じていたから、気付かなかった。
彼が、すぐ近くに迫っていたなんて...。