青のキセキ
苦しみの狭間で

どうやって家へ帰ってきたのか。

あれから、どこをどう歩いたのかなんて分からなくて。

気が付けば、自分のマンション前だった。






ベッドに腰を下ろし、溜め息を吐く。

テーブルに置いたバッグから手帳が見えた。

手を伸ばして手帳に挟んであった写真を手に取り、眺める。


お腹にいる赤ちゃん。頭と体の区別もはっきりと分かるようになって。


時間が経つごとに更に愛しくなって。




人差し指で写真を撫でながら、一人で色々と考えた。



まさか、綾さんが妊娠するなんて...。

課長と付き合うようになってから、一度も考えなかったわけじゃない。だけど、綾さんを抱いてないと言った課長の言葉に安心していた私。


この前、綾さんを抱いたと課長が言ったとき、嫉妬で狂いそうだったけれど、私のせいなのだからと必死に我慢した。私が修一さんに抱かれてしまったせいなのだからと。


それが、まさかこんなことになるなんて。



唇を噛み、滲み出る涙を堪えようとするも、両目から止め処なく流れ出る悲しみの涙。




課長と寄り添う綾さんの幸せそうな笑顔。

自分のお腹に課長の手を添えた綾さんの輝いた表情が思い出され、胸を抉られるような痛みを感じて苦しくなる。





もう、抑えきれなかった。



溢れ出る涙も、嗚咽の声も。






誰もいない、一人きりの部屋の中、私は声を上げて泣いた。











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