青のキセキ


「かなりの海水を飲んでたみたいだし、2~3日は入院した方がいいそうです」



「......」




どうでもいい。


どうせ。

行く場所なんてどこにもないのだから。

帰る場所なんてどこにもないのだから。












「奥様は...?」


目が覚めたときから、男性の姿しか見えないことに気が付き、聞いてみる。



「さっきまでいたんですが、ホテルへ戻りました。また貧血を起こしても困るのでホテルで休むように言ったんです」



旅先で会っただけである私の命を救ったばかりか、夫婦での楽しい旅行中にこんな騒動に巻き込まれたのに、少しも迷惑そうな素振りを見せることなく、むしろ優しく穏やかな表情で語る男性。



「すみません...」



それ以外何も言えなかった。




「気にしないで。ゆっくり休んでください。僕はこれで帰りますから。妻にあなたが目覚めたことを報告しないと」




柔らかな笑顔でそう言って彼は病室から出て行った。











一人きりの部屋。


聞こえるのは...規則的に刻まれる無機質な音。

























< 640 / 724 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop