孤独の戦いと限界
〜放課後〜
〜屋上〜

屋上に行き、夕焼けに染まった赤い空を見上げた。

『くくっ…』

俺は吹いた。
不思議なくらい、見事に赤く染まった空と街だ。

感性の強い俺は、こういう神秘的な物に、興味を引いたりする。

しっかし自然の景色は、心が無になる。

この広大な空の下にいる俺の悩みなんて、ちっぽけすぎるんだろうなぁ。

『この空の下にいる人間として生まれた俺は、何をしにきたのか…。答えてはくれないかな』

誰もそんな事は答えてくれない。
天もまた、同じく…。


《ガチャ‥》

後でドアの開く重い音がした。振り返ると、椎名が俺を不思議そうに見ていた。


『何してるのよ?』

『感傷に浸ってるんだ』

『あんたには似合わないわ』

『‥お互い様だ』

『何よ、もう』

…‥


『いつまでそうしてるの?』

『もう帰るよ』

鞄を肩にかけ出口に戻る。

『あっ、そうだ椎名』

『何よ?』

『昼は友美を気遣ってやってくれてサンキュ、本来なら俺の役目なのに‥』

『…いいのよ、あんたは真剣に悩んでたみたいだったし』

『………』

『何よ?』

『そんなに深刻そうだった?』

『そりゃ、自殺なんて夢を見て落ち込めば深刻に見えるわよ』

『‥悪い、お詫びにファーストフードのポテトでもおごるよ、どうだ?』

『せっかくだけどいいわ』

『‥そうか』

『でも今度ならおごって頂戴』

『俺は気分屋なところがあるから、今度は保障が出来ないけど…』

『…やっぱおごってくれるなら行くわ』

『‥食い意地が出たか?』

『違うわよ、あんたに言われたくないわ』

…‥


〜後日〜
〜放課後の図書室〜

あれから友美が元気を取り戻して良かった。例の夢はあれっきりだが、やけにはっきりしている。

確かに、昔の失恋の時には自殺を考えた事も…。

『よっ、宮川』

『藤先生、ちわです』

『まーた、難しい本を読んでるね。せめて漫画にしなよ』

‥と言って隣に座る。
俺は読書したいのに、会話でも始める気なのか。


『藤先生、見回りじゃ‥』

『見回りも大切だが、生徒の心を掴む事も大切なんでねぇ』

『………』

それは俺のことなのか‥

『………』

読書に集中出来ないよ。

『友達はいるのか?』

『えっ‥、まぁ少しなら‥』

『妹や椎名と話しているところを見るが、もっと学校生活を活発に楽しもうと思わないのかい?』

『………』

学校の授業自体が、悩み種の巣窟なんだが‥

『‥、楽しみ方は十人十色ってやつですよ。俺は俺なりに楽しんでます』

『それならいいが、本ばかり読んでは暗く見えてさ』

『暗く見えるのは、読書家だからですよ』

『そうか、まぁ楽しんでるなら、無理に友達の輪に入れ、と言わないけどさぁ…』

『人の出会いも運に因りけり、先生と同じ苗字の藤恵理さんって知ってますか?』

『!、知ってるって言うか…、いや、知ってるよ。それがどうしたの?』

?、何か藤先生の声に勢いが付いた気がする。
やっぱり知り合いなのかな。


『俺は恵理と呼ばせてもらってるけど、人の出会いも偶然の要素があるんだなぁ、って思いましたね』

『呼び捨てで!、そんなに親しい間柄だったか?』

『!!!』

表情が強ばり、身を乗り出されると話づらい…。


『…、って言うか本人がそう呼んでほしいみたいで…』

『………』

『前から可愛いって噂があったけど、会ってみれば性格にも魅了されました。今時にない澄んだ笑顔って感じがしました』

『…でも何処で知り合ったんだい』

『えっ、そんな事どうでもいいじゃないですか』

『頼む、教えてくれよ宮川…』

『‥本人には内緒ですよ』

『解った、約束する』

こんな真剣な藤先生は、見たことがない。一体何なんだろう…。

恵理とは知り合いなのか…

…‥


『‥以上です』

俺は、恵理が校舎裏で告白を受けていたこと、頭痛を心配して一緒に帰ったこと、全て話した。

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