孤独の戦いと限界
『じゃあ、どんな質問されたか答えてよ』
『‥くどいな』
『風紀委員としての責務があるからね。風紀を乱したような事で呼ばれたかもしれないし、‥で?』
『好きな人いるか、尋ねられた』
『真面目に答えて』
『いや、本当だって』
『‥私がそんな話を信じると?』
『嘘だと思うなら、帰り際、藤先生に聞いてみればいい』
『‥兄さん、お願いだから…』
『本当なんだ、嘘偽り無しで』
『………』
…‥
‥
〜終業〜
『特に連絡無しだから、当番、礼!』
罪悪感は無いとは言え、藤先生と会うのは気まずいなぁ。
終礼が終わると、友美が藤先生に何やら話してる。
『………』
あ〜、藤先生が俺に質問した事を確認してるな。
まぁいい、事実だ。気にしない、気にしない。
…‥
‥
〜図書室〜
《ガラッ》
『………』
し〜ん、とした図書室。
城主になった感じ♪
『宮川君♪』
と思ったら恵理がいた。
『恵理、勉強?』
『ん〜、まぁ、そんなとこです』
『そっか』
適当に本を並べる。
今日はどの本を読もうかな。
『難しそうな本ばかり…』
『きっかけさえあれば、人は何にでも取り組めるよ』
…‥
‥
『………』
読書モードに入る俺。
『宮川君』
『‥何?』
『昼休みの時はごめんね』
『気にしてないし、恵理が謝る事もないよ』
『でもお姉ちゃんは、優しい人ですから』
『!!!、お姉ちゃんって、まさか藤先生と恵理って姉妹!?』
『ええ、そうですよ』
ピースする恵理。
それなら教えてくれても良かったのに。
『同じ苗字だから、もしやと思ったけど。姉妹なら最初に教えてくれてもいいのに…』
『だって、お姉ちゃんの事を聞かれたくなかったもん。テストの事とか』
『俺はテスト範囲が、どの辺り出る、とか聞かないよ』
『でも結果として、姉妹という事がバレるのは色々…』
色々、複雑という事かな。
俺も友美との兄弟関係の内分を、探られたくないし。
…‥
‥
『なぁ、恵理』
『あっと、何ですか?』
『恵理から見て、俺はどう見える?』
『えっ?、そ、それはどういう‥』
『俺は読書家だから、周りからは淋しい人間に感じるみたい。恵理はどう見えるかなぁって』
『あっ、う〜ん、そうですね。…暗い人に見えそうだけど、もう少し話しかけてほしいって感じかな』
『‥今、読書は止めて会話に集中しろ、って?』
『解ってるのなら、そこで元気よく答えるの!』
『‥ラジャー!』
『よし!』
俺の場合、空元気の様な気がする。まぁいい少しずつでいいんだ。
『友美は元気ですか?』
『ああ、友美は必要以上に元気だ。時々、弱気なところもあるけどね』
無理して風紀活動はしてないと思うけど…
『恵理は最近、泣いたりする事ってある?』
『えっ?、泣く‥、ですか?』
‥、唐突な質問だったかな
『あ、いや、忘れて』
『小さい頃なら、色々あって、よく‥』
『いじめ?』
『違いますよ、家庭的な事かな‥』
『それは何?』
『トップシークレットです♪』
そっか…、いいけど‥
『でも、どうしてそんな質問するの?』
『‥、思い出の古傷が疼いて、涙がポタポタ出たんだ』
『最近の事?』
『最近だよ』
『何かな‥、何があったの?』
『トップシークレット』
『‥、マネはダメです』
『マネって言われても…、でも古傷が疼いた時、これだけは確信した』
『それは何ですか?』
『俺には俺を気遣ってくれる友美がいる、友美の存在だけは確かだって事』
『………』
『逆に友美が感傷してれば、俺が必ず救ってみせるけどね…』
まぁ、どっちもどっちか…。
『妹想いですね、羨ましいです』
『うるさいだけに、余計に…、ね♪』
『余計に可愛く、ですか?』
『…、まぁ‥、その…、‥可愛くない』
『さいですか♪』
恵理が目をつむって、ため息混じりに呟く。
『羨ましいなぁ‥』
『………』
ウットリするものかな‥
『恵理には藤先生がいるじゃん』
『うん…』
『家では怖いのか?』
『そんなんじゃないですよ、欲を言えば優しい兄さんも欲しかったかなぁ、って』
『それなら代わりに、優しい彼氏を見付ければいいだけだ。恵理ならモテるんだしさ』
『誤解ですよ、モテるから理想の男性が来るなんてないんだから』
『そっか‥』
『なんて言うか、気持ちの有り様なんですよね』
『どれだけ相手が好きか、って事?』
『そうですね、私は恋愛に関しては人生の思い出ランキングのベスト5に入れたいから』
日が暮れかけの時刻だが、結構シリアスな話が続く。
『…これだけオフレコにして話していい?』
『いいよ、何?』
『恵理の言う恋愛に重点を置くのは素敵だと思うよ‥、けどね…』
『うん』
『………』
『宮川君?』
『あっ‥、ボーっとしてすまない』
『いいよ、それで?』
『俺も恋愛が大好きな人間だった。恋愛を初めて経験した時は、この女の子とは一心同体だって思ったり、そんな時期があったよ』
『………』
『けど、その女の子は他の男に心を寄せていたんだ。人間の想いは絶対ではないんだ。冷酷な現実の一面だけどね』
『………』
『‥暫くして別れる事になった。恋愛を重視する俺の失意の反動はつらかった。‥この辺でストップする?』
『ううん、続けて』
『…、俺は暫くマトモではなかった。愛した女性が、他の男と上手くいってるのを見ると気が気ではなかった。‥その時に学習したんだ、恋愛を重視すると上手くいけば花だが、失恋すると悩み続ける事になるかもって、…一生悩むハメになるかも‥』
『………』
『それでも俺は祈るよ、好きだったあの子が幸せになる事を、ね』
『宮川君…』
『…俺の甘酸っぱい経験だ、参考にしてくれればいいよ』
『…前に失恋した時、甘えたいって言ったのはその事?』
『………ああ、こんな時、誰かの胸で泣きたいって思ったな。あの時程、この気持ちを共有してほしい、と思った事はないよ』
日が暮れそうだ…
何故か、恵理だと何でも話をしてしまう‥。どうしてだろ?
『辛いね…』
『……そうだね‥。現実の恋愛は上手くいかない事ばかりかもね。けど挑むしか青春できないもんね』
『‥そうだね』
『話がリアル過ぎてげんなりさせたか‥?』
『話じゃなくて宮川君が、そんな気持ちを抱いてるのを感じると…』
『俺は耐えねばならない現実だと思ってるよ、…さぁ、もう帰ろう』
このままじゃ日が暮れてしまう…
……
…
〜通学路〜
俺と恵理は校門を出て、通学路を歩き家路に着く。
『………』
『あ〜、恵理は大丈夫だよ』
『えっ?』
『皆が俺に使う言葉、悲観的になるな、なんだ。恵理もいつも通り、明るく振る舞ってほしいかな』
『‥うん、解ってますよ。けど‥』
『けど?』
『大丈夫?』
『…俺は過去の女性より素敵な女性に巡り合えて、恋愛すればいいと思ってる。悲観的な考えじゃないよ』
『…そっか、安心しました』
『‥今日はつまんない話しちゃってごめんな』
『つまらなくないですよ、勉強になりましたから』
…‥
‥