孤独の戦いと限界
〜自宅〜

『………』

椎名の事が気になって、読書に集中できないよ。

夕ご飯の時にも、友美はほとんど口を開かず、風呂を出ればさっさと自分の部屋に戻ってしまう。


『………』

友美の部屋に行ってみようか…。
椎名の悩み事を、何か知っているかもしれない。

…‥


(コンコン)

『友美、入っていいか?』
『‥いいけど』

(カチャ)

デスクに肘をついて、手で頭を支えている友美。

『まるで俺の授業スタイルだな♪』

『………』

深刻か…、う〜ん‥

『友美、椎名からどんな相談を受けたんだ?』

『兄さんは聞かない方がいいよ』

『椎名の友達として相談に乗りたいが、それでもダメか?』

『………』

『無理強いに聞こうとはしないけど、この質問だけ答えてほしいかな』

『…なによ?』

『椎名の相談ごとは、友美にも関係のある話だったか?』

『…、…‥』

肩を少しピクっと、震わせたのを見逃さなかった。
どうやら図星のようだな。


『どうして解ったの?』

『友美とは長年の付き合いだ。直感で解るよ』

『‥そっか』

『話せる時期になったら教えてくれ。友達が悩んでるのに助けないのは薄情だからな』

『………』

相談内容を教えてほしいが、今日は無理そうだ。
友美にも考える時間を与えるか…。

『じゃあお休み、友美』

『‥、お休み』

(パタン)
大人しく部屋に戻る。

〜自室〜

ふぅ、再び静寂の一時。
俺はベッドに寝転がる。

ブブブ…‥

ん?
携帯か、誰からだろ?

『………』

未登録…、ワン切りの悪戯電話か。

…‥


…にしてはしつこいな。

『あっ!』
この電話番号は自宅の…

(ガチャ)

猛スピードでドアを開け下へ降り、電話置き場に向かう。

『………』

『友美…、今のは友美か?』

『うん、やっぱり相談に乗ってほしいかな』

『‥直接俺を呼んでくれ。幽霊かと思ったぞ』

『ちょっとしたホラーを体感してほしかったの♪』

…‥


〜リビングルーム〜

ソファーに腰を下ろす。
TVをつけないでいる部屋は、普段より静かで空気が冷たい。

聞き手の俺はどんな話題がきても驚かないように、リラックスを心がけた。

『相談って言っても椎名の相談じゃなくて、私の悩んでる事なの。相談に乗ってくれるかな?』

『‥、悩んでる事があるなら、すぐに来てくれ。力になれる事なら何でもするから』

『‥うん、ありがと』

『いいんだ。‥で?』

『…うん』

『………』

…‥


『………』

『………』

下を向いたまま中々話そうとしない。
そんなに込み入った話をするんだろうか…。

俺はその場で座り直して、持久戦に備え、肩の力を抜いた。

『もし‥、ね?』

『うん』

『例えば、ね…?』

『うん』

『妹が、兄に恋を…、抱くのって…、その…』

『!!!っ』

なるほど、話の内容は大体察する事ができた。
確かに、これは切り出しにくい話だな。

『友美』

『な、何?』

『俺と友美は、元々兄弟ではない。また兄弟であっても、縛られるものでもないさ』

『あ…』

『世間体に縛られるのは嫌だからね。要は本人の気持ち次第だし。友美、もしかして…』

『……い、いけない恋かな』

恋愛ってこんなに急速に展開し、突っ走るものか?
友美が焦っているようで、他ならない。

俺は笑いながら言った。

『…友美、こんな俺のどこがいいんだ?』

『!っ』

友美の表情が険しくなり、軽くソファーを叩いた。

『いつも何かに真剣に取り組み、いつも優しいのに、私の兄さんはこんな、じゃないよ!』

『子供の頃からの失恋から抜け出せない、哀れな男だよ。俺は…』

『!、兄さん…』

思わず本音を出したが、もう訂正する気もない。
俺は続けて言った。

『失恋…、小さい頃のトラウマ…、読書のきっかけの出来事…』

『………』

『実際に書物は俺の失意を癒した。励みにも、失恋を考える時間をも潰してくれた』

『………』

『だけどこのままで終われないんだ。失恋の行方をいつまでも、いつまでも納得のいく答えが出るまで追い続けるんだ…』

『…兄さん、それは自己満足だよ。失恋で終わりなのよ。けじめをつけてその人を諦めないと』

『違う!、俺の中にはまだその人への愛があるんだ。正確には失恋ではない。想いだけが存在する、失っていない恋なんだ…』

『………』

『時々、気を失いそうになるよ。皆と同じ認識の失恋と受け止める事ができない自分自身に…』

『…兄さん』

『………』

俺はこうやって、答えのない物に捉われ、追い続けるのだろうか…。
目をつむり、視界を真っ暗な世界に変えた。

真っ暗な世界と真っ暗な恋路、そして真っ暗な俺。

光が欲しい…、俺が納得できる答えがほしい…。

『……、?』

おでこに温もりを感じた。友美が熱を計る様に、手のひらを当てている。


『私が兄さんを癒すから、もう思い悩まないで』

『………』

『兄さんがつらいのは、私もつらいの…』

『………』

『兄さんの心の傷は、私の新しい恋で癒してみて。きっと治してみせるわ』

『友美…』

『………』

『癒させてくれないか?』

『!、うんっ』

過去に束縛されてばかりでは、いずれ俺がつぶれてしまう。

…友美に、寄りかかろう。…友美と歩もう。

……


『明日、椎名に伝えないと…』

『何を?』

『………、椎名も兄さんのことを…』

『ええっ!?』

じゃあ、相談を受けたのはまさか…。

俺のこと、を…

…‥

< 21 / 45 >

この作品をシェア

pagetop