孤独の戦いと限界

『私、空想をときどき描いたりするの。あり得ない空想だから、笑わないで聞いてくれるかな』

『ああ』

初めて見る恵理の真剣な表情に、俺も心が引き締まる。

『異性同士、ペアがあればいいなぁと思うの。つまり、生まれた時から恋愛の相手が決まっていて、その人としか恋愛感情を抱けない様になってる、って言えばいいかな。そんな空想を描いてみたりするの』

『それは恋人がただ一人だけが存在しているって事?。地球、全ての人間が生まれた時から既に、恋愛の対象人物がペアとして決められているって事?』

束縛された恋愛の様にも思えるが、失恋、浮気、不倫という言葉が、この世から消えるのは大きいな。


『自由な恋愛は素敵な事だと思ってますよ。でもね、誰とでも恋ができてしまうのは、逆に怖い事だと思うの。きっと優助君ならわかると思うわ』

『…難しいけど、失恋がこの世からなくなるのはいいね』

『あくまで理想論だから、真剣に考えないで下さいね♪』

そう言ってあどけない笑顔に戻り、ポテトをつまむ。

『そうだね、失恋の思い出が蘇る時が多々あるから、恵理の理想論は骨身に染みるよ』

俺もポテトをつまむ。

『(クスっ)、新しい恋を作って下さいね♪』

『うん、解ってる。今度こそ、今度こそね』

グッと拳を作る俺。
新しい恋愛で、失恋を塗り潰すしかないんだ。

『今度こそ?』

『?、どしたの?』

『今度こそという事は、好きな人はいるの?』

『!、……』

相手を聞かれそう。
でもこれは相手を言いづらい。

先手打って足止めする。


『だ、誰かは秘密だけどね』

『そ、そう‥』

ガックリした感じで返事をする。
完全に想い人は、誰か問われるとこだった。

『………』

想い人と言うより、一番親しい人物になるかな…。

…‥


ファーストフードを出て、公園のベンチに座り、お互いの話題を出し合う。

終わりがないので、適当にキリあげる事にした。
暗くならない間に、家に送るのも男の役目なので。


『そろそろ帰ろう、送るよ』

『随分、話し込んだね。話題を出し切ってすっきりしました♪』

ベンチを後にしようとしたその時…

『あっ…』

『?』

恵理の視点は俺の後ろだ。
振り返ると…

友美と椎名、か。
そういえば、友美は椎名に会いに行ったな。

距離は離れてるが、友美と椎名は既に静止して、こちらに体を向けている。

つまり、大分先に俺らを発見していたようだ。

なぜ、声をかけてくれないんだろう?
その不思議は、いつも疑問化して推理へと移行する。

でもとりあえず、自己紹介だな。

『友美、椎名ー、こっちこっち』

いい機会だから恵理を、椎名に紹介する事にした。


『………』

友美も椎名も足取りが重そうに感じる。

『(何かあったんだろうか、今朝はいつも通りだったのに…)』

……


『奇遇ですね、兄さん』

『奇遇だけど、なぜ声をかけないんだ?、大分前から俺に気付いていただろう』

『‥うん』

『友美にはちょっと相談に乗ってもらっていて‥』

椎名が俺の質問を遮る。
相談、か…。

『‥、そうか』

空気が重い、重すぎる。
俺は素朴な質問をした。

『…なぜ二人して深刻なんだ?』

『えっと…』

『別にそんな事ないわよ…』

『言葉は事実に勝てない、とあるよ。何もない返事をしてるが、落ち込んでるだろ。その相談はよほど深刻なのか?、よければ相談に乗るけど‥』

『………』

『………』

二人は俺の肩隣にいる、恵理に意識が向いてる感じがする。

『あっ、椎名』

『何?』

『紹介するよ、こちらが藤恵理さん。それから、委員長の椎名綾だよ』

『よろしくね、椎名さん』

さっきまでの気さくな恵理ではなく、社交的な態度で挨拶をする。

『あっ、うん、よろしく。一つ聞いていいかな?』

『?』

『!っ』

何なんだいきなり。
友美が一瞬、ハッと息を飲んだのを見逃さなかった。

『何ですか?、何でも答えますよ』

『…ひょっとして、デート中だった?』

『えっ!?』

『…、えっ!?』

思いもよらない質問に、ワンテンポ遅れて反応してしまう俺。

『‥違いますよ、偶然会って話してただけですよ』

『そうだよ。びっくりするだろ、いきなりそんな質問』

『あ‥、ごめん…』

『………』

図書室の時といい、今の質問といい、明らかに椎名らしくない。

『本当にデートじゃないから安心してね』

『…安心っていうか、その』

魂が抜けた感じだ‥。
ちょっとほっとけないな…。

『‥椎名、悩みがあるなら俺も相談に乗るよ。今から喫茶店にでも行かない?』

『………』

『…兄さん』

『ん?』

『今日は大人しくさせて、色々悩んでるから察してあげて…』

そういう友美も表情が暗い。

『あ…、私、先に帰るね』
『椎名さん‥』

椎名は振り返る事なく家路を辿る。

『…椎名』

話が見えない‥。
俺のいないところで、何かあったのだろうか。

…‥

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