好きにならなきゃよかった
××さんには奥さんが居る。
21歳のときに今の奥さんをお嫁に貰った××さんは現在25歳。4年目となる夫婦の間に私が入る隙なんてない。
それに何も××さんの愛人は私だけではない。こうやって貰う"愛"は幻にしか過ぎない。ただ私が錯覚しているだけ。自分だけが愛されてるんじゃないか――…って。特別なのは私じゃないのに。寧ろ特別なのは奥さんの方だ。
狡い。この人は狡すぎる。
奥さんが居るのに、他の子が居るのに、
“愛してる”なんて言わないで。
「………"―――さん"」
ああ。名前を呼んでしまった。
今だけ、今だけは、許して。
今宵だけはどうか私のモノに。その綺麗な虚無の瞳に私だけを映して下さい。
××さんは狡い。
…だけどもっと狡いのは私の方。
奥さんが居ると分かっているのに××さんを求めているから。
首に回した腕に力を込め××さんに熱い眼差しを向ける。溢れる涙は止まらぬまま。欲望が私の掻き立てる。